リュック・フェラーリとほとんど何もない

リュック・フェラーリとほとんど何もない―インタヴュー&リュック・フェラーリのテクストと想像上の自伝

リュック・フェラーリとほとんど何もない―インタヴュー&リュック・フェラーリのテクストと想像上の自伝


ミュージック・コンクレートやサウンドスケープなどの地平を開拓した現代音楽家、リュック・フェラーリの自伝的著作。

サウンドスケープとは何か、についてはフェラーリ自身によるコメントにもあるとおり、自伝的音楽、自分語りの音楽である。他の作曲家もまたそうであるように。
異なる点は、具体音を用いた表現であること、それにより陰画のように自己を描出したこと、また、時には自身の声も混じるという表現の位相の違いであろうか。

そしてまた、この書物もそのような構成により形作られている。
ジャクリーヌ・コーによるインタビュー、モノローグ、偽史としての創作的な断章、それらをカットアップして配置することで、総体としてリュック・フェラーリその人の像を浮かび上がらせる。

リュック・フェラーリの功績は、理論的な行き詰まりを見せる現代音楽の中にあって、具体音という新しい次元にジャンプしてみせたことにあると思う。それもごく自然な手つきで。
そしてそれは、ヒップホップや音響派、ノイズなどの領域に受け継がれ、現代の音楽体験を豊かにしていて、我々はその恩恵に浴している。

“生き生きした森、そこでは、各瞬間がモクレンの花のように私の上に落ちて来るかも知れない、そこでは、瞬間からいくつもの顔が生まれ、それを私は眺める…、そして、角の売店まで新聞を買いに行くのに一歩一歩私は全人生を賭けるだろう。"